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ハンス島の例に見る領土問題

 昨今の日韓は竹島問題で騒がしいが、この手の領土問題でモメる話は世界各地で良くある事である。比較的成熟した民主主義国でも完全に無縁とは行かず問題を抱える事がある。今回は例としてカナダとデンマーク間にあるハンス島問題を取り上げてみたい。

 グリーンランドがデンマークの自治領として主権下にあるのは周知の事実である。このグリーンランドとカナダの間の狭い海峡にいくつかの小さな島があり、そのうちちょうど海峡の真ん中にあるハンス島が論争の対象となっている。この地図を見ると分かると思うがなかなか微妙な位置である。議論の発端は1973年に大陸棚に関して両国の帰属問題を決定した際に遡るが、このハンス島部分に関しては当時合意はなく政治的にも大きな問題とみなされていなかった。論争が大きくなってきたのは近年である。カナダドメインではあるが客観性はそれなりにあると思われるこのまとめサイトは参考になるだろう。その中で記述されるこれは何かのテンプレにしたい気もする。

The question one is inclined to ask is not, "Who owns it?" but rather, "Who would want it?"

 背景としては、地球温暖化で利用可能性が出てきた北西航路の件が絡む。このグリーンランド西のネレズ海峡は北極まで通じており、今後重要となる可能性もある。しかもこのハンス島に関連する決定は米国やロシアも含めた北極周りの主権論争に先例となる形で影響を与える可能性もあり、様々な思惑が錯綜している。一言で語れるような問題ではないのでここでは割愛するが、この北西航路への思惑は今後機会ある度に気にかけておいて良い重要な問題であろう。

 とはいえ、ハンス島の領土問題自体は、あくまでカナダとデンマークの当事者が決定する事である。そして背景があるにせよ、論争自体はやはり純粋に主権の問題として展開している。デンマークの立場はシンプルで、これが他のフランクリン島などと同様にグリーンランドの付属物であるというものだ。カナダ側の主張はもう少しややこしく、命名の元となったイギリス人の探検家が発見したものを引き継いでいること、及びイヌイットの伝統的利用が主権の根拠となると主張している。しかしいずれの主張も実は弱点を抱えており、北グリーンランドの主権がデンマークに完全に帰属した時期はやや遅れていること、イギリス人の探検家自身が発見したとは言い難い事実がある。仔細は省くがいずれもアメリカの関与がある話であり、発言に意味はあると思われる。しかし(例によってだが)国際水路であると発言するにとどまっている。

 言うまでもなくカナダもデンマークも外交的に奇矯な行動を取る国ではなく、イメージの悪い国でもない。しかしこの問題では双方の軍隊が出動、交代でフリゲート艦が現れ戦闘機が上空を飛びヘリが着陸しお互いに上陸して旗を立てたり時に燃やしたりとなかなか元気である。大臣まで上陸してくるのでそのことに関しては韓国といい勝負かもしれない。英語版Wikiやそこからのリンクなどなかなかに楽しい。ここでも北方へのプレゼンスとかカナダの国内問題が絡んだりとどこかで聞いたような話だ。「主権」が絡む問題となると大変だ。もう少し政治の未熟な国で死傷者が発生するのは当たり前と思えるほどだ。ともあれ日本が思うほど韓国の行動は異常視されていないと考えておくべきだろう。少なくとも現時点ではであるが。

 さて、ハンス島に見るような領土問題から日本は何を教訓とするべきであろうか?少しばかり触れてみたい。例えば、デンマーク政府がオタワで発表したこのような文書からは外交的儀礼ということに関して示唆することが多いと思われる。今回の交渉に関して言えば、日本は上記のデンマークのように「両国とも意見の不一致があることを認めた」で構わないであろう。もちろん、平和的解決の原則は謳うべきであり、韓国が国際的紛争ではないと主張しても「意見の不一致は互いに認めている事である」で終わりである。また、共同での建設的なプロジェクトも提案しても良いであろう。逆に韓国の立場とすれば、もっと早期から徹底して、「隠岐ではなく鬱陵島の付属物であることは間違いなく、歴史的には関係国の勘違いがあったようだ」と淡々としておけばよかったと思うのだが。

 ハンス島問題自体は国際司法裁判所で解決されるかもしれない。そのような場で日本が活動するのは向いているかもしれない。法の支配の伝統に関しては、日本は欧州に負けないくらい歴史があり、また国民の性向として好む所でもあるからだ。世界的な領土紛争全てに関して関係国の提訴を受け付ける用意がある、くらいに機関を強化してみてはどうだろう。「紛争の平和的解決のための基盤」という位置付けで、決定権は無いが世界各地の法的・歴史的事実の資料整備などの業務を行う常設の支援機関を設け、関連する資料をとりまとめて国際的に広く公開し、常に参照可能な状況としておくのはどうだろうか。アカデミズムの客観的検証を中核とするのが重要である。本格提訴になった際にその機関の資料が高い価値を持つようにしておけば良いのである。今の日本は自国だけが得をしたいと考える国ではない。何しろ普通に世界が今のルールで回ればそれだけで資産が集まるのだから。公正な決定であれば今の日本人は受け入れる。そのためには日頃から(少なくとも法理的には)公正に振舞わなければならないし、その信用を積み重ねることが遠回りなようでいてあらゆる問題の確実な解決策なのかもしれない。逆に一度不信を買うと外交上どうにもならないという事実は、世界各地で多数の実例を持って証明済みである。

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Comments

 ハンス島問題といい風刺画問題といいデンマークって結構お騒がせな国ですね(笑)。
 さて今回の海底調査の件、韓国は竹島の帰属に関わる領土問題と捉えてましたが、日本側は未確定のEEZと漁業問題と捉えていたようにも感じます。最初から話がかみ合わなかったのも、韓国の反応が異常に感じられたのもそこにあるのかと。5月から局長級のEEZ会議が開かれる旨の合意がなされましたし。
 中川政調会長が「日韓共同で海底名の命名を」と提案していましたが、これはまさにカワセミさんが言う「今の日本は自国だけが得をしたいと考える国ではない」事の表れでしょうか。ただその為には韓国自らが「反日」を克服する事が出来なければ、「日韓共同」は難しいと思いますが。

Posted by: ささらい | 2006.04.24 at 12:01 AM

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