イラン核開発問題の厳しさ
北朝鮮の問題もさりながら、ここ最近イランの核開発問題が注目を集めている。ロシアのウラン濃縮に関する仲介案が蹴られたのが直接の問題ではある。客観情勢だけ見れば、核武装の意図は相当強いと見るべきだろう。ロシアとしても、仮にイランへの経済制裁となっても原油価格の高騰は自国を潤す。ウクライナを巡ってまずい流れになったのを引き戻せるかもしれない。
核問題に関して関連したエントリを書いたことがあったが、私の考え方は特に変わっていない。そして今回考えなければならない事は、これは各国の核開発を考えるにあたって、力学的にはむしろ新しい情勢であるという事だ。これも以前のエントリで紹介したが、今日核開発を懸念されている直接的な該当国とは別に、地域や世界の情勢を変える可能性があるとしてこの書籍で「炭鉱のカナリア」と称されている8ヶ国の顔ぶれは興味深い。シリアを米国の裏の同盟国とここでは仮に仮定すると(非常にややこしい議論になるのでここでは割愛するが)いずれも米国と深い関係を持ち、安全保障上の関与を何らかの形で受けている国々だということだ。そしてむしろより深刻とも言えた1970年代あたりの各国の核開発問題-ブラジル、アルゼンチン、南ア、韓国、台湾など-も米国の関与で断念したと言える。そして安全保障上米国と関係の薄い、時代と状況によっては対立的な国としては、ロシア、中国、インドという国があるが、米国は伝統的に(渋々ながらも)核武装はむしろ容認する路線であった。これは世界の現実を認めたという実際的な判断もあるが、同時にソ連存在時には、ソ連の同盟国に関してはソ連が核開発を抑止するという役割を果たしていたと言える。そして良くも悪くも核武装は「大国の特権」であった。冷戦の終了時にはルーズニュークの問題がクローズアップされたが、それに付随して、この「核武装の抑止」機能が低下していたことにも着目し、エネルギーを注ぐべきだったろう。
私は、パキスタンに核武装を認めたという事に批判的な立場だ。これは、米国の伝統的な「同盟国に安全保障上の関与を行う一方、核武装を断念してもらう」という外交路線から逸脱したからだ。イスラエルはこの事に配慮するだけの判断能力はあり、公式に核武装していると発言することは無かった。イランで問題なのは、パキスタンが核武装している情勢で自国が核武装することは、市民の多くが当然視していることだ。The Independentは大統領の政治的な立場を指摘する。(参照)しかし背景はそうでも、核武装そのものは広く国内的に支持されていることから、政権がいかように交代しても推進される。むしろWall Street Journalの以下のような欧州に対する皮肉な諦観が率直だろう。(参照2)ちなみにこの記事で懸念されているイスラエルの件だが、イラクのオシラク原子炉の件はイランも良く承知しており、それなりの対策もしていると言われている。軍事作戦自体が困難かもしれない。
What we are really witnessing is a demonstration of what happens when Iran's provocations are dealt with in a manner that suits Europe's feckless diplomatic "consensus." After more than two years of nonstop diplomacy and appeasement, the world is no closer to resolving its nuclear stand-off with Iran. But Iran is considerably closer to acquiring the critical mass of technology and know-how needed to build a nuclear weapon.
中東諸国の特徴として、政権が一般に専制的、抑圧的なことがある。そのため本音ベースでは市民は自国の政権を好んでいない。政権が米国と関係が深いサウジやエジプトで米国の人気が無く、政権が反米的なイランではむしろ米国は(相対的に)好まれている。中長期的なことまで考えると、この市民の相対的な好意を維持しつつ、核武装を断念してもらうという路線しかない。つまり今の聖なる体制が変革され、民主化されないと国内的な力学上核武装を断念できないのだろう。イランの核武装にはまだ数年程度の余裕があるとされる。しかし逆に言うと数年程度の余裕しかない。そして仮に民主化したとしても、新興の国民国家はナショナリスティックで近隣諸国に攻撃的なのが歴史の常だ。(イラクもそれが懸念されている)いかなる要素を考えても、イランの核開発問題は波乱含みだと思う。
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