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憲法改正における自衛権の議論

 自民党の新憲法草案が海外でも注目を浴びつつあるようだ。この風景はある種明治維新のそれに似ているのかもしれない。世界がその重要さに気付くのに一定の時間を要するという意味で。例外は関わりの深い米国くらいだろうか。
 第九条の第一項をそのまま残したのは無難な選択だ。多くの民主主義国とさして変わるわけでもない。防衛のみを謳う建前はいずこも同じであるからだ。また自国単独での話となればそれで構わない。予防戦争などの積極的行動の場合は、いずれにせよ集団安全保障の問題の議論となり、一国の憲法が扱う範囲を超えるからだ。

 米国の視線はとなると、遠慮も何も無くこんな事を言うワシントンポストの言い分(参照)は本音に近いのだろう。真っ先に連想するのが台湾問題というのは現実とも合っている。

The most likely beneficiary would be Japan's closest ally, the United States, which has urged Japan to adopt such measures. Changes in Japan's constitutional status would have major significance in the region, particularly in the event of a conflict between China and the United States over Taiwan.

 またカナダ・オーストラリアなど、周辺国の見解はなかなか興味深い。いずれも一貫して日本との関係強化を求めている。あまり報じられていないがカナダはゴラン高原やインド洋などで日本と行動を共にしている。オーストラリアは終始積極的なアプローチだ。これは当然で、この付近の国はいずれも対米関係で苦労している。EUなどがある欧州と違って米国と単独で交渉する局面が多いからだ。日本は米国に対して多くの要求を通していると見られており(その代わり資金面での負担は大きいが)共同して自国の交渉を有利にしようという事もある。東南アジア関連で米国が少し引き気味であるというのも苦労するところだ。

 外交は形を変えた戦争という表現があるが、古典的にはそうでも近代、特に20世紀以降は必ずしもそうではなく、信頼を構築するのを基本とする。というのは、社会や産業が複雑化し利害関係が錯綜している現状では、ある程度他国が自国に対して好意的でないと外交の効率が悪すぎるからだ。特に日本のように他国の語学に堪能な人間が少なくリソースが限られている場合は全方位外交となるのは自然でもある。

 ところが安全保障となればそうではなく、これは不信を基盤とし、それへの対処を最小コストで行う事が目標となる。例えばオーストラリアと日本に対するこの文章、率直ではないだろうか。そう、我々はアジアに警戒心を抱いているし、時に不信感を持たれている。自国としては文明的に、許される余裕の範囲で精一杯やっているつもりでもだ。だがそれを破局に至らないように管理するのが安全保障である。集団的自衛はそのコストを下げるための方法ということだ。そして日本の安全保障に関する能力で他国に協力できる長所の部分は何だろうか?それは直接的には経済力を源泉とした優秀な軍備ではあるが、より政治的には、ある戦略の元での行動で、最大限の効率を洗練された方法で達成するという点ではないだろうか。例えば今サマワで地元の人間をうまく抱きこんで相対的安定を得ているが、この手の地道で丁寧な調整だろう。一方戦略立案とその徹底は米国が優れているので、共に行動すると米国の戦略の手伝いをしているだけに見られかねない。この付近は将来の課題なのだが、多くの利害を共有していること自体は事実なので、それを説得力ある形で国内に示すためにも他国を加えた集団的自衛は有効だろう。

 いずれにせよ憲法は原則を書くだけでよく、具体的な方策は別の法案で構わない。そして原則はケロッグ・ブリアン条約の時点と現在でも大差なく、それに対応する方策が日々変わってきているというだけではないだろうか。議論すべきは九条ではなく、その理念を達成する方法だ。全てを憲法という枠に閉じ込めたがる日本の性向自体が問題なのだろう。

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プーチン大統領訪日の意味

 国内の報道は北方領土問題に関心が集中していた感がある。私も可能性は低いながら進展の可能性は多少あるかもしれないと思っていた。実際はお互いの国内事情から原則論を動かすことは出来なかったようだ。では今回のプーチン訪日は何の意味も無いものだったのだろうか。今までのロシア首脳は領土問題の存在のため日本に来た結果が外交の失敗と解釈される事が多かった。ロシアにとって今回のそれはどうなのか。

 外務省が今回のプーチン訪日の概要をまとめて発表している。(参照)ここからリンクされている小泉政権下でまとめられた日露行動計画も、読むと今までに無い野心的なものだ。さらりと書いてあるが「戦略的パートナー」という言い回しはここでは必ずしも儀礼的な意味合いでは使われていないと考える。そして今回の訪日でも「成果文書」が重要であろう。これだけの成果が文書としてまとめられるのは、今までの日露の疎遠さを考えると意外なくらいだ。(4)の民間企業の協力の促進など、今までの日本の対応から考えると180度の転換と言えるだろう。その意味で、トヨタのロシア進出は、一部で経済の論理しか考えない売国奴と言わんばかりの報道もされているが、小泉政権下での方針を受けたテストケースというほうがより実態に近いのかもしれない。

 そして今回の成果文書で最も重要なのが(5)のWTOに関することであろう。通常WTO加盟では、加盟希望国が主要国に対する二国間交渉を行い、それが妥結することにより加盟に至る。当然米国とEUへの交渉が最重要だが、日本もこの分野で発言力が小さいわけではなくそれに次ぐくらいの地位ではある。かねて予想されていたとはいえ、交渉終了の宣言の意味合いは大きい。

 簡単ながら要点をまとめた記事があるので引用する。(参照2)米国、EUとの交渉は必ずしもうまくいっていない。特にここで述べられている航空機産業の問題は大きい。この産業、日本国内に実質皆無に近いという状況から実感は薄いのだが、欧米での存在感は極めて大きい代物だ。ロシアとすれば、主要な工業でそこそこの国際的競争力がある産業は少なく、これを保護したくなるのは無理もない。しかし欧米では身勝手なルールで参入するという象徴的な意味合いになってしまう。当事者にとっては大変な話だ。

 その意味で、今回の訪日の雰囲気を伝えるワシントンポストの論調(参照3)は、欧米から見ればこう見えるという典型だ。日本はロシアに対してサービスした、という所か。まぁ、成果文書を見ればビザだ観光だ公務員支援だと盛り沢山でそれはそうだろう。つまり、今回日本がまずはボールを投げた、それをどうするかは今後のロシア次第、ということだろう。今は拉致問題などで日本支持に回って様子見から始める、という所か。なお話がそれるが、以前からロシアによる北朝鮮の予防占領の計画を伝える報道が散発的になされているが、これは可能性が低いとはいえ中国のそれよりまだしも実現性が高いかもしれない。何となれば、中国が日本海側に港を持ち、ウラジオの近くに出てこられることをロシアは極端に嫌がっているからだ。シベリア鉄道の弱体もあり、ロシア極東は海運にかなり依存している事は周知の事実である。

 それにしても、領土問題あるが故に原則を譲らなかったイメージを保つことに成功した小泉首相は、誠に政治巧者だと思う。今までの並の首相では、何ら進展無いとして無能呼ばわりされていたに違いないだろうから。

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スーダン情勢に関する観察(1)

 この方面ではちと不勉強で情報通というわけでもないのだが、スーダンに関しては話題があれば軽くでも取り上げたいと思う。私が取り上げたからどうなるというものでもないが、ダルフールなど本当に放置されている感が強く、忸怩たるものがある。一応外務省のスーダン概況も見て置いて欲しい。(参照)

 今回、米国の国務副長官ゼーリック氏と、スーダンの第一副首相サリバ・キール氏の会見が報じられている。(参照2)ちなみに"CPA"とは1月に締結された包括的和平合意の意である。キール氏はスーダン南部を地盤とする反政府組織SPLAの事実上のトップで、対外的にはスーダンの第一副首相の肩書きであるが実際は反政府勢力の指導者ということだ。そして米国はこのSPLAを継続的に支援してきた。前任のガラン中佐はカリスマがあったようだが、今年7月にヘリの墜落で事故死している。後任のキール氏はまだ未知数といったところだろうか。ガラン中佐は統一主義者の側面が強かったようだ。キール氏は分離主義者といわれているようだが、ただ「スーダンの将来は国民が決める」との意見も持っており、知的で冷静な民主主義の信奉者との評価もあるようだ。

 今回の会見は、残念ながらダルフールに言及しつつもその点に関しての具体的リアクションの進展は無い。確かに南部で米国が領事館を開いたことは重要だ。そしてCPAを着実に実行することが間接的ながらダルフールの解決に近付くのも理解は出来る。とはいうものの。

So I think, as the President said, while there's a lot of focus on Darfur, understandably, where I was yesterday, it would be a huge mistake, in my view, if we let our attention turn from the criticality of working with the Government of Southern Sudan and then the Government of National Unity in the peace process.
 まぁ、そうかもしれない。しかし当面の大きな悲劇に対応する事はより重要ではないのか。
As the President said, we will proceed with our AID mission and it's not limited by the sanctions in any way. And the sanctions were really applied for three different reasons: One is the North-South struggle; the second is terrorism; and the third is Darfur. And so I've been very clear to all parties -- is that we have to resolve each of those problems to remove the sanctions. And we have to resolve them, not only with words on paper but actions, in fact. The reason that I've come here four times is I'm trying to push the actions so that we can sort of repair the relations and help a unified Sudan in peace to move forward as part of the international community.

 この優先順位であると発言している訳ではないが、しかしながら米国はそのように考えているという気もする。確かに政治プロセスが安定しないと何も進まないのであるが。

I met the members of the SLM very briefly yesterday with the objective of trying to know what objectives are they fighting for and so then when they go for negotiations, the (inaudible) was they can not be assisted by anybody except when their objective is not -- this is one. (・・・以下略)

ダルフールのSLMの動きはやはり鍵なのだろう。

 全般として、とにかく管理可能な状態に移行することが当面の問題で、それすら困難なのだろうという印象が強い。確かにスーダンの情勢は中国の横槍が無くても手を出すに出せないかもしれない。となれば、現地のSPLAの実効統治だけでもまともにしていき、それを基盤にして事態を進展させるしかないというのは現実解なのだろうか。

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ミサイル防衛の欧州配備

 ハワイ沖で米国のイージス艦Lake Erieが初めてミサイルから分離後の弾頭を撃墜することに成功したと報じられている。(参照)重要な進展だが、米国内では多くのステップの一つに過ぎないと考えられているのか扱いは大きくないようだ。むしろ欧州配備に向けたニュースに関心が集まっているようだ。(参照2)今日は軽く触れておきたい。

 欧州に対する攻撃の防衛のため、ポーランドにミサイル防衛のための基地を設け、主として中東やアフリカからの攻撃を防ぐことが検討されているらしい。大陸間弾道弾に近い中距離ミサイルが主なターゲットと見られるが、もう少し短距離のミサイルについてはイタリアやスペインも想定にあるようだ。
 ミサイル防衛は抑止のための核兵器とは違い、防御のみであり、しかも100%の防御にはならないので役に立たないという意見がある。以前のエントリでも述べたが、これは議論する観点がずれており意味が無い。抑止は核兵器で取るにしても、抑止不可能な相手がミサイルを持つ可能性はあり、とにかく何がしかの防御の手立てが必要ということだ。この抑止不可能な地域の代表が中東であり、その意味で本命と言えるかもしれない。また近年の中国の国内的混乱を見ても、以前に述べた政治的効果というのも思った以上に意味があるかもしれない。

 ミサイル防衛の技術は日本の寄与も大きい。少なくとも海上配備型は地中海に展開する米国のイージス艦で使用される。話をする相手が米国だけならともかく、例えばオーストラリアから何がしかの支援の要請があったとき日本はどう反応するのだろうか。この種の技術や装備を有している国が世界に数あるわけでも無い。国内の集団的自衛権の議論を見ていると相も変わらず浮世離れしているが、そういう事も含めて考えなければいけないだろう。

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雑記いろいろ('05.11.16)

・所得収支
 財務省発表の国際収支速報として、海外投資などでの所得収支が半期ベースで初めて貿易収支を上回ったと報じられている(参照)。いずれはそうなると思っていたが、今回は円安進行とか原油高とか色々な要因が絡んだようだ。
 少し以前の資料になるが、経済産業省の通商白書の2002年度版がなかなか参考になる。丁寧に説明してあって、専門家でない一般人にも親切な出来だ。(参照2)ここでは第2章の第3節からが該当する。こういう資料を見ると、日本が仮に活力を徐々に失ったとしても、成熟し安定した国としてそれなりに繁栄しつづけると思えて安心する。そして色々言われながらも貿易黒字はそれなりに稼ぎ続けそうでもあるし。ただ、在外資産の多い国は昔から軍事的負担もそれなりに必要になるのが世の習いである。歴史を大局的に見れば英米仏独日と主要国はいずれも発展段階次第で役割を拡大していると見れないことも無い。外から見れば日本は勝ち組みでしかないので止むを得ないが、面倒な時代にはなりそうだ。

・ブッシュアジア歴訪
 モンゴルが要注目。情報ガードが堅い感あり。アジア外交はいつも水面下で動くのだろうか。日本は少しマシになってきたと思いたいが。

・プーチン来日
 これは来るまで正直内容がわからない。厳しいという状況を強調し過ぎの感があるから案外何かあるかもしれない。経済関係の同行者も多過ぎる。もっとも相手はロシアなので、いつものごとく何か壮大な勘違いをしてるかもしれない。

・鳥インフルエンザ
 かなりまずい状況。中国では山のように発生していると見るべきだろうが、例によって情報が出てこない。そろそろ進出企業にも影響が出てくる時期か。日本国内ではさすがにそれなりの発表をするようになってきた。ただ数字の見積もり部分は甘めのを採用した感があるが・・・・・

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書評を兼ねた近年の中国経済に関する印象

 もう読んでいる人も多いと思うが、今回は山本一郎氏の著作「『俺様国家』中国の大経済」を取り上げてみたい。氏は「切込隊長」のハンドルネームでblog界では有名なようだが、著作という形で読んだことは無かったので興味深くはあった。体裁は整っているが硬質で皮肉な文章になるのかなと予想していたが、フタを開けたらその言い草はblogと同じような勢いで展開していた。もっとも、これは本の帯に「中国13億の民に告ぐ!『愛読無罪』」などと書いている時点で予想できねばならず、その点は私も要反省だ(苦笑)

 それはともかく内容だが、とにかく中国は経済に関する基本的なデータが信用出来ないというのが大前提としてある。で、そういう実体を個々の事例を極力挙げる形で極力説得力ある形で示し、可能な範囲で推論するというのがこの本の基本コンセプトである。事例としては各章で、ファンダメンタル、不良債権、通貨政策、エネルギー問題などを取り上げ、それらに共通する問題点として、統計の杜撰さ、および捏造、党決定の絶対性による硬直性などを様々な事例を紹介する形で示されている。ある程度の常識がある人には「多分そんなところじゃないかと思っていたがやはりそうだったか」という印象になるだろう。ただ、この本はもう少し無邪気に中国に関わろうとしている人々への警告の書であるのかもしれない。文章としてはあの言い草だし、叙述も銀行の決算書が山賊に襲われて決算できませんといった個別のエピソードが面白すぎてエンターテイメント的ではあるが、要所のメッセージは真面目なものである。
 それにしても、私も色々な本を読んでいるつもりだが、およそ経済に関して語る本でこれほどまともな数字らしい数字が出てこない本も珍しい。大学レベルの数学知識は普通必要になると思うが(一般人向けの本でも多くは高校レベルを想定しているだろう)笑えることに四則演算のレベルすら怪しい。著者もそのような事を書いているのだが。

 その他この書籍の内容に関しては読んでもらうしかないとして、感想を交えつつ関連したことに関して述べてみたい。ここで挙げられた中国経済の無茶苦茶さは、実のところ昔から知られていたものである。普通に考えればこういう国が経済発展することはない。では、なぜ少なくとも近年は発展してきたか。それを考えるほうがむしろ重要だろう。これに関しては為替が全てとも言える。ドルペッグ制により通貨の信用を擬似的にドルとリンクさせ、貿易黒字によりドルや円を稼いでいるという事だ。中小企業で該当する業界にいる人は分かると思うが、コスト競争力の関係上、中国に進出しないとそもそも明日明後日の契約が取れないという場合が既に多い。低コスト化の努力をしていない企業とは取引を打ち切る顧客は多い。気楽に「長期的に見れば日本に不利」などと言っている場合ではなく、全く自社の商品が売れずに半年で会社が無くなるかもしれないのである。要は、中国が狙っているのはこういう状況がほぼ経済の全領域で発生することである。そしてこれを脱却するには、ほぼ同時に(できれば業界ではなく国単位、さらに可能なら主要な経済大国全部で)撤退とすることだろう。

 最近のFinancial TimesとかThe Economistといった、海外の経済関係のマスコミの論調が非常に微妙である。日本が中国への新規投資に慎重になり、会社によっては撤退しているところもある。欧州企業はそれを有利な条件で買う事は可能ですよと。可能だけど実際それってどうよ、というニュアンスだろうか。要は、彼らも良く分かっていないという事だ。つまり最後に持っていた者がジョーカーの引き合いのごとく損をする可能性があると。まぁ、フォルクスワーゲンとかは確定組に見えるがどうだろうか。そういえば高速鉄道もドイツということになりそうらしいが、ドイツはまた中国で大損するのだろうか。

 いずれにせよ、中国の経済成長、はどうなっているか分からないとして貿易収支とするが、いつまでも成長を続けるのは不可能だ。それを買う国が存在しなくなるという単純な事実によって。何らかの形で調整が発生するが、それがどう展開するかは誰にも分からない。
 歴史を長期で見れば、日本は20世紀末から21世紀初頭に自国の経済低迷を脱するために中国を使い捨てにした、と悪のほうに分類されるかもしれない。そもそもの経緯として1989年の天安門事件直後、日本が他の欧米諸国を出し抜く形を取ったのは否定できないということもある。少なくとも中国が将来そのように解釈するのはもう確定に近く、仕方ないかもしれない。ただ、少なくとも先進国の間ではそう思われたくないなという気もする。しかし、ドイツやフランスが失敗した場合にはそんな意見が盛り上がる可能性もありそうだ。アメリカやイギリスはきっちり逃げ切るのだろうが。

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フランスの暴動に関する個人的な覚え書き

 フランスの暴動に関しては、ほどなく収まるといいなという希望的観測もあって軽い扱いにしていたが、やはりこの件はひっかかるので自分がこの時に何を思ったか備忘録も兼ねてエントリにしておきたい。今回の事件の構図だが、大雑把に捉えるとこうではないかと考えている。
 まず、移民一世は自らの行動に自覚的で、それなりにフランス社会との調和を目指していたと思う。これは旧植民地の北アフリカ諸国が多いことからも推察できる。そしてフランス社会はこういう層をターゲットとして社会制度の最適化を図ってきた。しかし、二世となると話は別となる。この変化への対応が甘かったというのが問題なのだろう。

 これは在日朝鮮人の問題に比較すると興味深い。日本の場合は、朝鮮との絶対的な文化距離はやはりそれなりには近かったということ、そして人種的に近縁で外見上の区別はつきにくい事が大きい。日本語に堪能で外見上の区別がつかなければ表面上の摩擦は少ない。フランスの場合は本質的に文化主義的で、例えばフランス語ペラペラな黒人への風当たりはそれほど強くも無い。しかし他地域の慣習を持ち込もうとする部分に反発する。この付近は日本も近いところがあるかもしれない。そして北アフリカ出身の移民二世はそれなりの文化慣習を親の世代から引き継いではいるが、フランス社会でそれを韜晦する事に関しては(絶対年齢が若いということもあり)未熟だったということだろう。にもかかわらず、社会に対する要求水準としては、親の世代とは変化して他のフランス人と大差なくなっているだろう。日本においても在日朝鮮人の外見が日本人と明らかに区別がつくものであれば、周囲の人間が注意を払うことで水面下にあった問題が顕在化し、今回のフランスのような問題が発生したかもしれない。

 今回の問題、米国から見れば、バグダッドと比較するような煽り報道を除けば気楽に見えるのだろう。ちょっとした暴動ですぐ死者が出る米国社会に比べれば可愛いものだと。しかし、米国には悪いが、それぞれの社会の様相で基準は変わってくる。フランスにとってはやはり大問題だろう。米国のアフリカ系黒人は出身母体との文化的紐帯をほとんど持っておらず、その意味で「純然たるアメリカ人」だ。国家への不満は大きいが忠誠はむしろ強いかもしれない人々である。フランスの場合は国家の文化的統合の危機としての認識だ(むしろ暴動当事者の思惑が二の次と言えるかもしれない)全く違う種類の問題を並べて議論している印象がある。そしてフランス人に取って見れば、文化的一体感こそが命だ。

 またこれは私が断片的な報道に接した印象でしかないが、英米であれば、サルコジ内務相の政治的評価はそれほど下がらないと思う。そしてド・ヴィルバン首相はむしろ問題から逃避したと見なされて評価を落とすような気がする。ただ、フランス国内的には様々な要素が絡んでいるので何とも言えない。
 フランスで今後問題となるのは、被害の大きさそれ自体より社会の意識の変化だろう。もう少し補足すると、政治の場での力学の変化だ。誰もが百も承知でいたが言い辛かった事がいささか言えるようになるのだろう。その結果がどうなるかに関しては何とも言えない。ただあの国は、英米と並んで国民はそれなりに骨のある国だ。どういう具合に世界に対して「いい格好」をするか、見守りたいと思う。何だかんだといいながら、私はあの国が好きだから。自国のように欠点も含めてとまでは言い切れないが。

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雑記いろいろ('05.11.8)

・フランスの暴動
 この件に関しては気が重くなる。欧州の大手マスコミはどこも遠慮があるという印象だ。事実関係を述べているだけにとどめたいかもしれない。当り障りの無い内容だが、一応参考に一つだけリンクしておく。(参照)米国ではバグダッドとパリを比較する遠慮の無さで、カトリーヌ報道の意趣返しではあるまいが、概して冷淡な印象だ。欧州での一貫した論旨としては、英国の多文化主義、フランスの同化主義の双方とも破綻したということのようだ。オランダのリベラリズムが行き詰まるのは確かに理解できる。しかしこの両国は、問題を抱えながらもそれなりの現実解を目指して来た国だ。だからこそ欧州の閉塞感は否めないだろう。そしてここに至ってもイスラム教そのものの問題に関しては目をそらしがちだ。ではブログはとなると、フランス人のを多く目にしたわけではないが、これは逆の意味で語りたくない。北アフリカ移民の問題は色々ややこしい。以前のエントリでも少し述べたが。
 知的で前向きな展望をこれほど目にしない問題も、近頃無かった気がする。

・北朝鮮との交渉
 少し前に、核問題や拉致問題などで分科会を設けて個別に交渉するというニュースが流れていた。現在も進めているのだろうが、これはアメリカのアドバイスという気がする。ちょうどEUの支持も確保できた時期でもあり、これからは韓国の押さえ込みに注力というフェーズとなるか。

・鳥インフルエンザ
 ファイザーがワクチン増産の噂。またスイスのロシュはタミフル増産を発表。(参照2)日本政府は何かしてるのだろうか。本来なら製薬会社に話を通すために国会に法案を出す時期なのだが。

・本田美奈子逝去
 芸能関係にはさっぱりな私も名前くらいは知っている。友人で好きな人がいた。白血病とは儚く、残酷なものだ。5日に岩崎宏美が見舞いに行っていたが、そのときはまだ反応があったようだ。私も小学校以来の親しい友人を20代で亡くしている。いずれも親が喪主だ。人間が最も避けなければならないことはそれだとつくづく思う。

 フジモリ出国?すいません、興味ありません(苦笑)

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鳥インフルエンザの脅威とはどういうものか

 鳥インフルエンザの感染可能性について色々報じられている。これがどういう文脈で問題視されているか、多くの日本人はあまり実感が無いようだ。これに関しては非常に良い論文があるのでこの機会に引用しておきたい(参照)。筆者のローリー・ギャレット氏は感染症やバイオテロなどの外交・安全保障への影響を専門としている。やや長いが内容は充実している。ほぼ全てを精読する価値があるだろう。一部引用する。

The havoc such a disease could wreak is commonly compared to the devastation of the 1918-19 Spanish flu, which killed 50 million people in 18 months.

 欧米人のイメージとしてはスペイン風邪ということだ。この件は第一次世界大戦との関連もあって鮮烈だ。ただ今の日本人には大規模な感染症の被害は国家的記憶としては薄く、ピンと来ないかもしれない。2ページ目あたりにはスペイン風邪の時の経緯が書かれており参考になる。

The CDC predicts that a "medium-level epidemic" could kill up to 207,000 Americans, hospitalize 734,000, and sicken about a third of the U.S. population. Direct medical costs would top $166 billion, not including the costs of vaccination. An H5N1 avian influenza that is transmittable from human to human could be even more devastating: assuming a mortality rate of 20 percent and 80 million illnesses, the United States could be looking at 16 million deaths and unimaginable economic costs. This extreme outcome is a worst-case scenario; it assumes failure to produce an effective vaccine rapidly enough to make a difference and a virus that remains impervious to some antiflu drugs. But the 207,000 reckoning is clearly a conservative guess.

 そして悪性の流行が大規模に起きた場合はこれほどの被害になるということなのだが、後述しているように確率の問題でもあり、脅威が実感されにくい。

 政治の対応は流行しなかった場合の非難を考えると及び腰になりがちだ。フォード政権下での豚インフルエンザ騒動は実例だけあって興味深い。インフルエンザに関する予想は至難で、必ずしも専門家の予想は当たらない。この時はこのような結果に終わった。

... I am asking Congress to appropriate $135 million, prior to the April recess, for the production of sufficient vaccine to inoculate every man, woman, and child in the United States." Vaccine producers immediately complained that they could not manufacture sufficient doses of vaccine in such haste without special liability protection. Congress responded, passing a law in April that made the government responsible for the companies' liability. When the campaign to vaccinate the U.S. population started four months later, there were almost immediate claims of side effects, including the neurologically debilitating Guillain Barr・Syndrome. Most of the lawsuits -- with claims totaling $3.2 billion -- were settled or dismissed, but the U.S. government still ended up paying claimants around $90 million.

 直接の費用それ自体も洒落にならない莫大な額だが、ワクチンには副作用が付き物なのも問題だ。インフルエンザのように変化が激しく、急速な生産が必要な場合、検証する時間もあまりないのだろう。

 そして大規模感染の場合、ワクチンの生産量は足りず、途上国には行き渡らない。そもそも先進国での国内需要も足りないのだから。

There would thus be a global scramble for vaccine. Some governments might well block foreign access to supplies produced on their soil and bar vaccine export. Since little vaccine is actually made in the United States, this could prove a problem for Americans in particular. Facing such limited supplies, the U.S., European, and Japanese governments might give priority to vaccinating heads of state around the world in hopes of limiting social chaos. But who among the elite would be eligible? Would their families be included? How could such a global triage be executed justly?

 世界の指導者に優先的に配布するという話が大真面目に論じられている。それでもそれをどのように決めるかという問題は残る。

 この論文では、後半でグローバルな取り組みのための国際機関に予算を配分する事を提唱している。いざ発生したときの大規模な費用を考えると僅かな額だろう。しかしながら、それすら事前に決定することは非常に難しいだろう。スペイン風邪と豚インフルエンザ、2つの失敗はいずれも重い。

 そして、感染の初期段階ではむしろ泥臭い対応が重要だろう。隠そうとする農民への保障ということだ。例えばこのアナン氏の訴えは途上国を見捨てるなということでもあろうが、実際的ではある(参照2)。日本ですらそのように行動するのだ。しかし主な危険は中国ということになりそうだ・・・・・発生したとして、早期に把握できるのだろうか。場合によっては世界の命運がかかるのだが。

 最後に日本の厚生省のものをリンクしておく。(参照3)大声で色々言いたくないのは分かるし、心構えが必要な人々は一部でいいのだろうがこれは・・・・もっとも大規模感染に関する懸念はマスコミがツッコミを入れないといけない問題なのだが、それはいつものことだが日本では無理だろうか。

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内閣改造雑感

 話題性には乏しいが、なかなか興味深い面もある内閣改造だ。少しばかり触れてみたい。小泉首相の改革を競わせるという言は確かに本音のようである。

 官房長官の安部氏だが、これは官邸主導の現在重要なポストではあるが、悪い言い方をすると監視がしやすいという事でもある。失敗したときはひどい事になるが、これが勤まるようなタフさがないと将来の首相になるのは難しいという事だろう。細部に至るまで内外から厳しく評価されると言う意味では、私は米大統領選の予備選のイメージを抱いた。
 中川農水相だが、この人の配置などはなかなか象徴的だ。元々農水族と言えるが、経産相時代にFTA関連をやらせて、その上で農水相にしてお手並み拝見というのはやるなと思う。小泉首相は農政改革も念頭においており、農協などをどうにかするつもりなのかもしれない。
 個人的に興味深く思っているのは竹中総務相だ。これはテレビ局などの既得権益改革の意図があるのではないか。最近の総務省は昔と違って放送局の権益をむしろ嫌悪している傾向がある。細かい話かもしれないが、デジタル放送におけるコピーワンスの見直しとか(正直大歓迎だ)IPによる再送信とか、デジタル放送普及を大義名分にして色々崩しにかかっているという印象がある。竹中総務相で加速させるのかなと思う。

 そして、外相ポストについて述べてみたい。これも特徴的だ。自分の任期終了に近付くに従って党での発言権が強い人物を配置していっているという印象だ。今は官邸主導だが、次政権からは改革された外務省として頑張ってくれないと困る、というところだろうか。
 町村外相が外れたのは非常に惜しい。私は戦後の外相の中でも氏の能力や見識はNo.1かそれに近いと思っていた。小泉首相以上に欧州直系の外交の伝統を有しているように思える。官僚出身の割に外務省的でないなと思っていたら、同窓だったという別宮氏の言によると(過去ログページ、要検索)ドイツ中世史の権威であるという話だ。それはかなり腑に落ちる。ドイツ的な学者肌の政治家と表現できるかもしれない。ところで小泉首相の政治的ポジションは以前のエントリ(参照)で少し書いた事がある。非伝統主義者という側面は、今回の自民党憲法草案でも中曽根氏の保守色の強い前文をあっさり却下している事からしてもあまり外れていないと思う。そして現在の自民党の政治家で町村氏は立場が近いほうだろう。立場が近いからこそ不要と見なされたのかもしれない。立場が近く、自分より優秀かもしれないから嫌ったと言う事はないと思うが、小泉首相に悪意ある人はそう解釈するかもしれない。靖国参拝とかで立場は違うが枝葉末節だろう。歴史認識も近いと思われる。
 麻生氏になると日本の伝統的な保守主義者の色も強くやや毛色が違ってくる。しかし頭の悪い人物ではなく、政局に対する判断力もある。お手並み拝見としか言いようがないが、期待されているのはまさに外務省内部のコントロールだろう。町村氏に弱点があるとしたらそういう部分かもしれない。安保理常任理事国を巡る国連外交などは良い見本だ。町村外相本人の認識は正しくても、変な部下に好きなようにやらせてしまった。その意味での責任はあるだろう。
 小泉首相の「10年、20年、30年・・・」という発言(参考blog)が一部で話題になっているが、中韓とは当面とにかく距離を取るというメッセージでもあり、麻生外相起用はその延長上のメッセージでもある。また対米外交は当面官邸主導での余裕もある。つまり「外務省」でありながら当面は国内改革に専念するという面もあるのではないか。今に限り、それもまた賢明だろう。この一年はかけがえの無い最高のチャンスであるからだ。麻生外相はその時間を生かせるのだろうか。

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