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保守政治勢力の変化と歴史観

 これは漠然とした印象であり、勘のようなものに過ぎないが、近年右傾化していると言われつつある論壇は、むしろ今年あたりから退潮の傾向があるのではないか。自分が良く見て回るブログで、最近保守論壇への嫌悪感を記しているのが目立つせいもあって、私がそう思っているだけかもしれないが。

 保守政治家といっても、様々な立場の人がいる、雪斎殿のエントリで、マトリクス化による分析がなされたものがある。非常に参考になるので目を通して欲しい。そしてここでの分類では強いて言えばx軸かと思うが、いわゆる保守政治家の中でも、儒教的価値観や土着的伝統政治を重視する「伝統主義者」とでもいうような勢力が退潮したのではないかという印象を持っている。そしてこの政治勢力はしばしば民族主義的ナショナリズムの傾向も重なる。

 この政治勢力の伸び悩みは様々な要因が考えられるが、私は情報化社会の進展が一つの要因だと思う。例えばブログなどで英語圏の情報も含む世界情勢に接している人で、一定以上の知的水準にある人は価値観の相対化が進んでいる。視野の広さが狭隘な視点に陥るのを防いでいるのではないか。そして自国が同じ立場に置かれればどうかという問いは自ら発せられる。そして、この民族主義的路線が経済的・政治的に高コストであることも理解しており、近年の経済情勢では選択し辛いとの認識があるのではないか。もちろん若い世代はしばしば民族主義やリベラルに過剰に流れはするが、それでも全体的に見ればどの時代と比較しても穏健とは言えまいか。

 主張の表出例として、第二次世界大戦の扱いなどがある。これに関しては近年冷静な議論も増えてきたので喜ばしい。最近だと中央公論(2005.11号)に記載された大杉一雄氏の論考が優れていると感じた。当然とは言え、問題を開戦前の外交過程に絞っている点、政治家の具体名を挙げてその行動を逐一記している点など、基本的なスタンスに好感を覚える。日本の南部仏印進駐が決定的なターニングポイントだった点の扱いが大きいのも適切だ。識者には常識とは言うものの、中学や高校の教科書等でももっときっちり記述されて良いことだろう。そして日本の取り得た選択、米国の取り得た選択を記しており、ルーズベルトの提案、日米首脳会談の模索などを取り上げている。

 この南部仏印進駐に関しては思うことも多い。時代を遡るが、日清・日露戦争は日本の侵略意図の開始とする史観がある。主に左派勢力から強く主張されてきたが言うまでも無く誤りである。これは朝鮮半島近辺を舞台とする安全保障リスクへの日本の反応として発生している。緩衝地帯とか中立地帯にどこかの勢力が軍を進めれば地域が不安定になるのは古来より変わりが無い。イギリスが第一次世界大戦に参加したのはベルギー中立侵犯であることを考えるべきだろう。冷戦期でもチェコは見捨てられたがソ連がスウェーデンやオーストリアに侵攻したら大戦争になったろう。そしてアフガンで勢力圏と緩衝地帯の認識を間違えて大失敗した。もちろん当時の南部仏印は英領マレーシア、シンガポールの目の前である。実のところ近代の戦争の多くが、この安全保障リスクへの対応で発生している。主要国が関わったものとなればその大半と言えるかもしれない。

 日本は自国の歴史を振り返るだけで適切な解に辿り付く事は出来たのだ。対米戦争不可避などといった主張は誤りに過ぎない。自国中心主義でなく、全て相対的に考えることがいつの時代も常に正解を導くのであろう。

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Comments

 今、ある筋から依頼されて、戦後の「保守」と呼ばれるものの解析をやっています。保守論壇の「退潮」の始まりは、拙者も感じるところですけれども、同じことを感じている向きが多そうですね。

Posted by: 雪斎 | 2005.10.13 02:45 AM

以前から漠然と感じていたことですが、「南部仏印」進駐は石油の枯渇を恐れた財界の要望であったという「説明」に異和感を覚えています。南部仏印に資源があるにせよ、掘り出して使えるようになるまで何年かかると思っていたのか。経済リアリストであったら、絶対に出てこない発想なので、これは誰かが作ったウソなんだろうと思ってます。

Posted by: かんべえ | 2005.10.13 10:26 AM

ここ数年の保守論壇の高まりは反中、反朝、反韓感情の高まりに引きずられたものだったのでしょう。ただ、やはり「アンチxx」だけでは長くは続かないのでしょうね。
まあ、日本にはこれらの国のように民族絶対主義の国には成って欲しくないので、この変化は歓迎ですが。

Posted by: Baatarism | 2005.10.13 11:06 AM

雪斎先生のところから飛んできました。どうやら、
本日論じられてる中公の文章は、かなり面白く
読めそうな雰囲気ですので、今週末に高速バスの
中でゆっくり読ませていただきます。

Posted by: おおみや%バイト君 | 2005.10.13 07:34 PM

世の中全体が覚醒する過程で一時的に「極端」に引きずられることは避けがたいのではないかというのが、私なりの感想です。幕末にもそういった過激な志士はたくさん居たわけですし。振り幅を小さくしつつ、やがて落ち着くべきところに落ち着くのではないでしょうか。
また「ぶれない」事をさも自慢げに語るグループがありますが、私には頭の固い原理主義者にしか見えません。本当の保守とは自国の立場を客観視し常に相対的な視点を忘れないカワセミさんとか、憲法9条が改正されればハト派に転向する雪斎さんのような方々なのだと思います。

戦前の資源確保に関しては東シナ海の海中資源の発見が半世紀早ければ、日本の運命は随分と変わったんじゃないかなあ・・・と最近つくづく思います。

Posted by: まったり | 2005.10.13 09:41 PM

初めてコメント欄に書かせてもらいます。

私は、少年期にソビエトが存在し、成人することソビエトが崩壊したあたりの世代ですけど、少年期のころを思うと隔世の感があります。本当に世の中が変わりました。私の小学生のころは、まだ自衛官の息子をいじめる教師がいましたから。細かく検討する人は、長いスパンで保守の系譜を辿るのでしょうけど、変化したのは1990年ですよ。1980年代は真っ赤かでした。

最近の保守系勢力の退潮傾向の原因の一つは、左翼から転がって右派になった人たちの極端で毒々しい民族主義や、こういう転がり保守組みともともとの保守との不和とか、そういうのも理由の一つにあるように思います。

あと、アメリカについての見解の相違ですよね。これは左右両方ありますけど。

歴史研究を職業とする人間としては、100年後の人々が日本を研究するとき、日本の言論空間の1990年代の変化をどのようにとらえるか興味があります。たぶん、我々同時代人と比べて、かなり単純にすっきり定式化するように思います。たぶん、「渡部昇一」と「小林よりのり」で全部説明すると思います。これいうとみんなに笑われるんですけど(笑)。妙に自信あるんですよね。まあ、どうせそのころは死んでるんで、外れても痛くも痒くもないんですが。

Posted by: オッカム | 2005.10.13 10:21 PM

おや、コメントが沢山。皆さん有難うございます。

>雪斎様
それはなかなか面白そうな仕事ですね。個人的には佐藤政権とか大平政権の微妙な変化(ある意味挫折とも言えるか)などの時期を興味深いと思っています。その変遷とか、挫折といえるかもしれない経緯とか。それにしても保守勢力のみならず、リベラル勢力に相当するものが育たなかったのが戦後日本の悲劇ですね。マルクス主義にすっかり汚染されてしまいました。

>かんべえ様
当然の見解と思います。古代や中世ならともかく、近代戦争に経済原因論を持ち出すのは十中八九的外れと考えて良いでしょう。資本家の政治的影響云々と昔の共産主義者が言う程度のレベルかと。この大杉氏の論考でも複数の説明がされていますが、私は(2)あたりのマレー作戦との関係とか、軍事上の要請の暴走が主因と捉えています。当時の感覚では「無主の地」だったんでしょうね。そういう感覚は欧州に理解されたかもしれなくても、米国には無理だと自覚出来なかったのが当時の日本の悲劇かもしれませんね。

>Baatarism様
>ここ数年の保守論壇の高まりは反中、反朝、反韓感情の高まりに引きずられたものだったのでしょう。
色々複合的な要因があると思います。例えば韓国では、親北の勢力は勿論ですが、保守勢力も万が一南北統一になってしまってはたまらないので、北支援に賛成という事自体は同一で、結果的に政策の合致が見られてしまっています。内心反対でも容認せざるを得ないと。これは不幸なのですが、日本においても経済界は親中なれど、政治的には反中のスタンスを容認しておかなければ迂回貿易により欧米から利益を得ているとの批判に晒されてしまいます。中国側にしてみれば、自国だけに政治的摩擦をしわ寄せされているという感覚があるでしょうね。もちろん直因としてはインターネット等で真の情報が出回るようになったことでしょう。しかし識者や政治家でそれなりの水準の人は、事の最初から状況は百も承知だったと思います。

>おおみや様
こちらでは初めましてでしょうか。宜しくお願いします。「中央公論」は、国内で刊行されている雑誌の中では珍しく質の低い論考が少ない雑誌です。文芸春秋や世界とかがもう少し知的に怜悧になれば、と思うのですが。

>まったり様
有難うございます。ぶれない思想の核を確固として持っている人は、政策レベルで柔軟になることに自信を持つものです。私もそうありたいと思うのですが。それと石油ですが、昔も今もさして重要な問題とは思えません。買えばいいの一言です。それと当時の技術水準では海底油田の開発は採算に乗らないかもしれませんね。

>オッカム様
初めまして、宜しくお願いします。
私は近年の状況は、日本のみならずある程度世界の先進国に共通と思います。確かにマルクス主義の汚染は日本とフランスが特にひどかったかもしれません。しかし他の地域も大差なく、最近のリベラル勢力の無責任さによる退潮も共通現象でしょう。そして極右勢力は出てくるたびに一発屋で終わる印象があります。日本だけを指してどうこうという記述は我々の思っている以上に残らないのかもしれませんね。

Posted by: カワセミ | 2005.10.13 11:43 PM

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Posted by: ブログフリーク | 2005.10.14 01:52 PM

今も昔も買えばいいとおっしゃいましたが、当時の経済状況では、石油が戦略物資化しつつあったのもまた事実ではないでしょうか?
現在と状況は似ているかもしれませんね。

Posted by: daigo | 2005.10.16 12:09 AM

当時の世界情勢では、石油を必要とする工業国が今より少なく、売り先が絶対的に少ないという事情もあります。売る方は米国もオランダも抜け道探しに必死だったようです。特にオランダはインドネシアの現地行政は抵抗していましたが本国はドイツの影響下でありやりようはあったでしょう。
当時の日本にしても石油は必須ではありましたが今と比較すれば随分違います。ただ軍艦が動くのには必須で、それが当時の海軍の殺し文句でした。自らのイニシアティブのために詳しくない連中を騙すネタにしたというのが真実に近いのではないでしょうか。
ちなみにソ連は北樺太の石油開発権を日本に譲るとかいうこともしています。そこに石油がある事はかなり昔から分かっており、いつの時代も資本と技術が必要というだけの話でした。ヒトラーの要請を受けた北進論のほうがまだ合理性があったでしょう。(それがいいという話ではないですが)ソ連を仮想的にしない限り日独同盟は何のメリットもない事は間違いありません。

今日でも、日本としては高値安定が続くとの判断が本格的に下るのであればそれはそれで悪くない話です。様々な代替エネルギーや省エネ技術、バイオなどの代替素材などが採算ラインに乗ってビジネスが回り始めます。ロシアは現在貴重な時間を稼いでいますがこの時期に工業国になれるかどうかが勝負でしょう。数十年とかの長期で見れば石油相場は下落するのではないでしょうか。

Posted by: カワセミ | 2005.10.17 12:08 AM

石油に関しては、多くの車両軍を保有(全然数がたりませんが)している陸軍が動くのにも必要ですし、航空機を飛ばすのには航空燃料が必要です。民需の方でもやっぱり必要です。たしか、年間300か200万tくらいは必要じゃなかったかな(民間需要

しかし、石油が重要なら何故対米関係を重視しないのか?

そんなわけで、当時でも石油は重要です。でも備蓄量は充分で、当時の海軍の主張に誇張が入っているのは確実でしょう。

すくなくとも、南部仏印進駐が必要なほどの量が必要だとは思えないし、蘭印との交渉をぶち壊すほどの問題ダトも思えない。

アメリカの当時の外交に問題がなかったとはおもわないし、んなこた言わないけど、もうちょっとどうにかならんかったのか……と考えてしまうのですよ。

Posted by: おきゅきゅきゅきゅ~ | 2005.10.19 10:09 PM

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