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核拡散問題に関する近年の議論、および考察(1)

 イランと北朝鮮における核兵器開発問題の出口はなかなか見えない。核兵器誕生以来、この究極の攻撃兵器を巡って世界は振り回され、それは今も継続している。ここで場合により資料を引用しつつ、何回かのエントリで私の考えを述べてみたい。
 まず、核兵器獲得のインセンティブは基本的に費用対効果による。純粋に使う用途よりは世界的に見れば安全保障面での政治的ツールとしての役割が大きい。この動機は国によって異なるが、米国と同盟を結んでいる先進工業国と地域大国を目指す途上国は様相が異なる事が多い。
 例えば日本の場合どうだろうか。私は少なくともソ連や中国のような、米国と緊張関係にある国に関しては核の傘は有効に機能する(もしくは、そういう方策が政治的に最適解となる)と考えてきた。少なくとも冷戦期に核武装を考えるとなると、ほぼ次の二種類の事態が発生した場合に限られると思っていた。

(1) 韓国、台湾など、近隣の米国の同盟国が核武装した場合。
(2) ドイツ、イタリア、スウェーデン、カナダなど、世界の主要な工業国が核武装した場合。

 いずれも米国の核拡散に対するポリシーが変化した場合を示す。少なくとも抑止のために存在する核については、抑止環境の変化が唯一の理由ではないかと考えている。しかし、冷戦期以降の不安定な状況では、この抑止環境が変化し、米国のポリシーもかなりのメンテナンスを伴わないと機能することが難しくなってきた。
 私が近年の米国の政策で最大の失敗と考えているのは、パキスタンに核保有国となるのを認めてしまったことだと思う。これは、良くも悪くも(本当に良くも悪くも、だが)大国の特権的な印象がある核兵器を、場合によっては地域大国が認められる事があるという悪い先例を作ったと考えられる。例え当面の不公正さはあっても、当面インドには認めてパキスタンには安全保障の傘を提供して我慢してもらうべきだったろう。案の定この悪影響は後にイランに及ぶ。

 核拡散に関しての議論で良いものがあり、引用する。(参照)主要部の日本語訳は現在発売中の「論座」7月号に掲載されている。ここでの議論は、将来見通しの部分に関してはいくつかの留保が必要だと思うが、現状認識に関してはほぼ完璧に近いと思う。内容自体は読んでいただくとして、いくつか感想を述べてみたい。

・NPTの抜け穴
 少し補足すると、民生用の技術として開発し、兵器技術に転用しようとする国があるのは今に始まったことではない。ほとんど核不拡散体制の成立当初から出てきているに近い。そのため民生用の技術も禁止しないと核拡散は防止できないという悲観的な見解は昔からあるものだ。

・核軍縮の試みと不拡散体制
 現在の核保有国が核軍縮をすると核兵器の拡散は止まるかというと、それはナンセンスというのは全くその通りだろう。むしろ米国のような強力な核保有国(他の国でもいいのだが、現実問題として存在しない)が抑止のために軍備を整備したほうが、同盟国は核武装を断念することが多い。もちろん一部途上国は、現在の核保有国が核軍縮する中で自らが核武装するのはメリットが大きいと考えるだろう。

・北朝鮮核実験時の日本と韓国
 日本が最初に倒れるドミノになるとしているが、これは外れるだろう。恐らく非核三原則の三番目、「持ち込ませず」を解禁する形で対処するのではないか。というのは、韓国に核武装させたくないというのを日本は最初に考えると思われるからだ。

・イランの核武装
 ここで話題に出ているパキスタンとイランの識字率だが、前者が30%で後者が97%とある。私はぼんやりと60%-90%くらいのイメージを持っていたので少しばかり認識が甘かったと痛感した。恐らくイランは中東で最も近代的国民国家を作りやすい国だろう。一般の印象と違ってイラン国民は宗教面では最も世俗的でもある。「聖なる体制」は家に戻れば無いようなもの、だそうだ。むしろ近年の韓国などに近い形かもしれない。この国に関しては何とか米国と同盟関係にまでなって核の傘を提供するのがベストなのだろうが・・・・
・北朝鮮核武装問題の進展
 最後の部分で述べられている悲観的な読みはかなり鋭い着眼点だ。事実手を出しにくい環境が揃っている。伝統的な米国の政権ではこうなる可能性が高い。ただブッシュ政権に限ればどうなるか分からないと思う。韓国が反対している限り武力行使は出来ないが、かといって米軍の朝鮮半島からの撤退は韓国の核武装を促すだろうというのは、述べられているように当たっているだろう。

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Comments

コメントというより質問なんですが.核戦略のような分野には私は全く暗いが、それでも核不拡散のためには既存の核大国(現実的にはアメリカしかないでしょうが)の傘の有効性しか効き目のある処方箋は無いことはよく理解できます.(その意味では既存核大国の核軍縮が核拡散防止の前提という日本の議論には頭をかしげる)そこで問題なのは、同盟関係に到らないまでも核の傘というものは有効性を持つものでしょうか.例えばインド・パキスタン両国の核廃棄の為に、あるいはイランの核兵器計画廃棄の為に、アメリカが有効なコミットメントをなしうるとすればそれはどう言う状況なんでしょうか.いやいやながらでもそれらの国が核をやめるオプションを提供できるもんでしょうか.勿論、NATOのような組織にこれらの国が入ることが可能なら、英仏の核がなんら問題でないごとく問題にならないでしょうが、それは全く非現実的ですね.

Posted by: M.N.生 | 2005.06.13 at 11:09 AM

まず、一度核武装してしまった場合は廃棄は困難です。これは過去皆無に近く、南アが唯一の例外でしょうか。よほど強力な枠組みがないと苦しいですね。
そして核武装前ですが、これは若干方法が無いでもないと思いますが、経済的な見返りとセットで何がしかの保証を提供するくらいでしょうか。ここでこの取引が成立するためには、議会政治の機能している民主主義国で無いと説得プロセスがうまく回らないです。これは過去のブラジルやアルゼンチンなどが辛うじて成功した例でしょうか。引用した資料の中では70年代の例としてダーティな国々を挙げていますが、同盟よりは薄いが一定のコミットメントが成功の要因でしょう。また最近でもシリアは裏の同盟国という見方も出来なくは無く、抑制が効いているのでしょう。このあたりの苦労も米国が民主化にこだわる要因の一つとなっています。民主化はコミュニケーションの条件でもあるのです。日欧が代替策を出さない(出せない)部分ですね。日欧に核拡散を防止する力は無いでしょう。
次以降のエントリで別の資料も紹介する予定があるのでそれもぜひ読んでいただきたいのですが、軽く触れるだけでも歯ごたえあってどうしようかと迷っています。

Posted by: カワセミ | 2005.06.13 at 11:18 PM

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